天皇陛下は何の学者?研究テーマから見る人物像
近現代の天皇家の方々は、各々学問において
研究テーマをお持ちであることをご存知でしょうか。
例を挙げてみると
・昭和天皇の研究テーマは「変形菌類」や「ヒドロ虫類」
・上皇様の研究テーマは「ハゼ」
・秋篠宮様の研究テーマは、昔は「ナマズ」今は「家禽類」
このお三方に共通するのは生物ですね。
もしかしたらなんとなく聞いたことがあるかもしれません。
では、今上天皇(現天皇)の研究テーマは何だと思いますか?
あまり耳にする機会がないので、ほとんどの方はおそらく知らないと思います。
その答えは「水」です。
より具体的に言うと、「水運」「水上交通史」なのだそうです。
ここでその内容が詳しくわかる書物をご紹介します。
『水運史から世界の水へ』(NHK出版)
これは天皇陛下の水にまつわる過去の講演録をまとめたものです。
2019年に初版が出ており、
その時書店で山積みされていたので買おうかどうしようか迷ったのですが、
見送ってしまったのです・・。
しかしあれから5年ほど経ち、ある日突然無性に読みたくなったのですね。
しかし本屋さんで扱っているところがないのです。
いろいろ探した結果、なんと自宅から歩いて行ける距離の
まだ行ったことのない大型本屋さんにあったのです。
灯台下暗しとはこのことですね・・・。
前置きが長くなりましたが、なぜこの本を読もうと思ったか。
それはメディア以外の方法で、天皇陛下の人となりを知りたくなったからです。
日本人にとって天皇信仰はもっとも必要不可欠なものだと確信しましたが、
天皇論や皇室を語るものが自分のほしい情報ではなく、
人間としての天皇陛下をよく知ることのできるものという点で、
ご本人の手による「本」以外の選択肢はなかったのです。
そういうわけで読みはじめたのですが、
講演録とはいえ論文の装いも兼ねている構成ですので、
正直読みやすくはありません。それなりに気合いが必要になります。
そしてなんといっても
歴史における水上交通史が研究テーマとされていますので、
これはやはり歴史書です。
歴史好きの方のほうが、馴染みやすいことは間違いないでしょう。
さらになんと!古文書の解読も一部引用されているのです!
これを読破すると、陛下が水研究の学者としてではなく
歴史研究家としての一面もあることが非常によくわかるのですね。
私などは卒論のテーマ選びに苦しみ抜いた経験がありますので、
よくこの分野を選択したなぁと、その着眼点に驚愕したのでした。
自分の興味のある分野が、研究未開拓地帯とはなんと羨ましい・・・。
そういったことを考えながら、日本の中世の瀬戸内海の水運、
そしてイギリスのテムズ川の交通史の研究を知ることとなります。
こうした極めてマジメな研究を軸とした講演録の中で、
陛下の個人的な出来事や思いに触れられた部分がたまに出てくるのが
実はこの本を読むにあたっての醍醐味でしょう。
「テムズ川の水上交通史が研究テーマなのに、下水道と勘違いされた」
「図書館で傘を盗まれて、ずぶぬれで帰った」
「花粉症時期に、資料の新聞紙から舞い上がるほこりに悩まされた」
など、陛下は花粉症だったのか~と感慨ひとしおだったりします。
公の場での発言からは個人を表現したものは見られませんし、
本当のところはどう思っているのか、
どう感じているのかはわからないものですよね。
そうしたことが日本で一番ベールに包まれている天皇陛下の
人間らしさを垣間見れるのは大変嬉しいことなのです。
しかしそうはいっても本の趣旨を汲み取ると、
陛下が書いた本という観点よりも
水についての研究者が天皇陛下だったという観点から見た方が、
おそらく正しいのだろうなと思うのと、
きっと陛下はそう思ってもらいたいのだろうという気がしたのでした。
追記
実は読み終えた直後に知ったことですが、
2023年4月、『テムズとともに』(紀伊国屋書店)という書籍が出版されたようです。
これは陛下の英国2年間の留学生活を振り返った回顧録のようです。
こちらのほうが万人向けの内容になっているのではないかな
という気がしますし、より人間らしさがわかるものと想像します。
読み終えましたらまた取り上げてみたいと思いますので、
乞うご期待ください。